東京高等裁判所 平成12年(ネ)1577号 判決
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、各自、控訴人らそれぞれに対し、六〇四万〇〇八八円及びこれに対する平成七年六月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行の宣言
二 被控訴人らの控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、控訴人らは、原判決で認定された過失相殺前の損害額については不服がなく、過失相殺による減額について不服があると述べた。)
一 原判決三枚目裏七行目末尾の次に「(甲三ないし五、二〇)」を加える。
二 同四枚目表六行目末尾にの次に「(甲三、証人H)」を加える。
三 同四枚目裏六行目の「を得」の次に「(甲二二の4)」を加える。
四 同五枚目表一行目冒頭から同八行目末尾までを次のとおり改める。
「(3) 被控訴人Y3社
被控訴人Y3社は、被控訴人Y2社から本件工事を請け負い、これを被控訴人有限会社Y4(以下「被控訴人Y4社」という。)に発注した。
(4) 被控訴人Y4社
被控訴人Y4社は、被控訴人Y3社から本件工事を請け負い、これを被控訴人株式会社Y5(以下「被控訴人Y5社」という。)に注文した。
(5) 被控訴人Y5社
被控訴人Y5社は、被控訴人Y4社から本件工事を請け負い、埼玉県所沢警察署から本件工事部分の道路使用許可を受けて、平成七年五月ころから本件工事を施工した。(前記(4)、(5)の本件工事の請負につき証人H)」
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人らの本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一二枚目裏一一行目の「前記争いのない事実」を「前記争いのない事実及び証拠上明らかな事実」と改める。
2 同一三枚目表九行目の「七・一メートル」の次に「(訴外車両の進行車線の幅員は三・四メートル)」を加える。
3 同一三枚目表一〇行目の「自転車通行可となっている。」の次に「川越市方面に向かって左側には歩道がない。」を加える。
4 同一三枚目裏一行目の「禁止となっている。」の次に「訴外車両から見て、本件事故現場から一五メートルほど前方には信号機による交通整理の行われている交差点がある。」を加える。
5 同一三枚目裏八行目の「下請負請負契約」を「請負契約」と、同一〇行目の「本件工事についての請負契約を締結した。」を「右工事のうち本件工事についての請負契約を締結した。被控訴人Y4社は、右工事のうち本件ガソリンスタンド本体の工事を施工した。」とそれぞれ改める。
6 同一五枚目表一行目から二行目にかけての「同年六月一三日、舗装本復旧工事のため、」を「期間を平成七年五月一二日午前九時から同月三一日午後五時まで、方法又は形態を機械堀削による施工方法(昼間片側通行)として、」と、同三行目の「道路使用許可を得た。右許可いずれについても、」を「同月二日、道路使用許可を得た。右許可には、」とそれぞれ改める。
7 同一五枚目表五行目から六行目の「復旧させ全面交通開放することという条件が付されていた。」を「復旧させ、全面交通開放すること、やむを得ず道路の堀削箇所等を復旧できない場合、又は夜間工事の場合は、工事予告板、工事標示板の位置に一〇〇ワット以上の照明灯を設置し、点灯しておくこと、歩行者保護のため工事箇所周囲に一〇〇ワット以上の照明を必要数設置し、点灯しておくことなどの条件が付されていた。本件事故直後の同年六月一三日、被控訴人Y5社は、舗装本復旧工事のため、期間を同年六月一九日午前九時から同年七月一五日午後五時までとする本件工事部分の道路使用許可申請をし、右と同一条件で道路使用許可を得た。」と改める。
8 同一五枚目裏二行目の「担当者H」を「専務取締役H」と改め、同三、四行目の「別紙交通事故現場見取図中の」から同五行目の「延びる道路」までを「建築中のガソリンスタンド北側沿いの道路部分」と改める。
9 同一五枚目裏六行目の「工事箇所の」から同七行目末尾までを「幅五〇センチメートル、長さ約八〇メートルの本件工事部分の上にセーフティーコーンを間隔を保って並べて置き、二つのコーン間にセーフティーバーを布設した。そして、同月末以降、本件工事部分は、工事時間内外を問わず、右の状態のままにされていた。」と改める。
10 同一五枚目裏八行目冒頭の「本件事故当時」を「本件事故直後」と改める。
11 同一五枚目裏九行目冒頭から同一六枚目表三行目末尾までを「本件事故直後の平成七年六月一二日午前七時五五分から本件事故現場の実況見分が行われた。本件道路の川越市方面に向かって左側には、建築中の本件ガソリンスタンドがあり、道路との境に新設の有蓋の側溝が設けられ、本件工事部分は、前記のとおり非舗装となっており、砕石が敷かれ、車道との段差が最大で一二センチメートルあった。路側帯の本件工事部分の上にはセーフティーコーン(セーフティーバー付きのもの、以下同じ)が並べられ、その一部は車道にもはみ出していた。本件事故現場付近の本件道路は、訴外車両の進行車線が渋滞しており、対向車線も混んでいた。」と改める。
12 同一六枚目表五行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。
「訴外会社の従業員であるGは、本件事故当時、訴外車両進行車線が渋滞していたため、微速で訴外車両を運転して直進していたが、前記交差点の手前に右折専用の白線矢印の標示が設けられていたため、左側の直進及び左折車専用の白線矢印の標示のある方向へ緩やかに寄って行った。亡Fは、自転車を運転して、訴外車両進行車線上の左端寄りをその後方から川越市方面に向けて進行し、渋滞で微速進行中の訴外車両及び後行車両と路側帯との間を後方から通過しようとしたが、自転車のハンドル右端部分と訴外車両助手席後部付近のコンテナ部分とが接触し、さらに訴外車両の後部コンテナ部分にも接触して、転倒し、訴外車両後部左側車輪に巻き込まれ、死亡した。
Gは、訴外車両を運転して進行中、約八四メートル左後方から進行して来る自転車をバックミラーで見たものの、特に意識しないまま進行して、右接触によりハンドルに衝撃を感じて、初めてミラーで亡Fが倒れているのを確認し、訴外車両を停止させた。」
13 同一六枚目裏二行目冒頭から同二一枚目表八行目末尾までを次のとおり改める。
「1 被控訴人Y5社の責任
被控訴人Y5社は、前記認定のとおり本件工事を被控訴人Y4社から請け負って、実施したこと、被控訴人Y5社が所沢警察署長から得た道路使用許可には、工事時間を午前九時から午後五時までとして、工事日程は一日で終了できる範囲とし、工事の施工時間外は、道路の堀削箇所等について埋め戻し、又は覆工板等により復旧させて、全面交通開放とすることが条件となっていたこと、右条件にいう埋め戻しは、仮復旧工事をすることを意味し、右工事は、堀削部分を原状と同じ高さになるよう砕石を敷いて埋め戻して、転圧をかけ、さらにアスファルトコンクリートを打って、転圧をかける工事をいうこと(甲二二の15、証人H)、本件道路は、片側一車線の車道幅員七・一メートルの道路であるが、所沢市の主要な道路で、特に朝夕の通勤時間帯は渋滞の多い道路であること、訴外車両の進行車線の幅員は、本件工事部分を除くと、約二・九メートルになることなどに照らすと、本件工事部分上にセーフティーコーンを並べて置いた状態で放置しておくことは、本件道路における車両の正常な交通を妨害し、場合によっては事故が起きるおそれがあることは、被控訴人Y5社において予測することができたものであり、平成七年五月末の時点では本件工事部分について舗装による仮復旧工事をすることができたのであるから、被控訴人Y5社としては、舗装による仮復旧工事を実施して、全面交通開放にし、交通の円滑と安全を確保するとともに、事故の発生を未然に防止すべき義務があったものというべきである。しかるに、被控訴人Y5社は、本件工事部分の舗装による仮復旧工事をすることなく、平成七年五月末以降これを前記のような状態で放置していたところ、本件事故が発生したのであるから、過失があったというべきである。
そして、前記認定事実によれば、亡Fは、自転車に乗って本件工事部分の手前付近にさしかかり、本件工事部分によって路側帯を通行することができなかったので、本件工事部分の右側沿いの車道を進行していたところ、本件事故に遭遇したものであるから、右過失と本件事故との間には相当因果関係があるというべきである。
したがって、被控訴人Y5社は、民法七〇九条に基づき、控訴人らに生じた後記損害を賠償する義務がある。
2 被控訴人Y3社の責任
右認定のとおり、被控訴人Y3社は、社員のIを本件工事の現場監督として立ち会わせていたから、本件承認の内容及び前記警察署長の許可条件を了知していたものと認められること、平成七年五月末ころ、被控訴人Y5社の専務取締役Hが本件工事部分を舗装により仮復旧する工事を提案したところ、Iが建築中の本件ガソリンスタンド北側の道路舗装工事と一緒にやるよう指示したので、同日以降、本件工事部分は、舗装による仮復旧工事をすることなく、前記のような状態で放置されていたこと、1で説示したと同様の事情から、被控訴人Y3社も、本件工事部分を前記のような状態で放置することが本件道路における正常な交通を妨害し、場合によっては事故が起きるおそれがあることを予測することができたものと認められることなどに照らすと、被控訴人Y3社には指図につき過失があったものというべきであり、右過失と本件事故との間に相当因果関係があることが認められるから、被控訴人Y3社も民法七一六条但書により原告らに生じた後記損害を賠償する義務がある。
3 被控訴人Y2社、同Y4社の責任
前記認定のとおり、被控訴人Y2社は、被控訴人Y1社から本件工事を含む本件ガソリンスタンドの建設工事を請け負い、これを被控訴人Y3社に発注した者であり、被控訴人Y4社は、被控訴人Y3社から右工事を請け負い、本件工事を被控訴人Y5社に発注した者であり、従前から、被控訴人Y2社が土木建築工事の施工等を、被控訴人Y4社が土木工事等をそれぞれ事業目的としてきたこと(弁論の全趣旨)からすると、右被控訴人らは、被控訴人Y1社が得た本件承認の内容及び被控訴人Y5社が得た警察署長の許可条件を了知していたものと推認されること、そして、証拠(証人H)によれば、工程会議のため被控訴人Y2社の工事担当者が本件工事現場に来たことが認められること、被控訴人Y4社は、本件工事部分に隣接する土地上で本件ガソリンスタンド本体の工事を施工していたことなどからすると、被控訴人Y2社及び同Y4社は、平成七年五月末ころから本件工事部分が前記のような状態のままで放置されていたことを知っていたものと認めることができ、右被控訴人らは、右のような本件工事部分によって本件道路における車両の正常な交通が妨害され、場合によっては事故の起きるおそれがあることを予測し得たものということができるから、本件工事部分について舗装による仮復旧工事を実施するよう指示すべきであったというべきである。しかるに、右被控訴人らは、何らの指示もしなかったのであるから、その指図につき過失があったというべきである。そして、右過失と本件事故の発生との間には相当因果関係があることが認められる。したがって、右被控訴人らは、民法七一六条但書により控訴人らに生じた後記損害を賠償する義務がある。
4 被控訴人Y1社の責任
前記認定のとおり、被控訴人Y1社は、本件工事について、道路管理者である埼玉県b土木事務所から道路工事施行承認を得たものであり、本件承認には、前記のような工事の技術面に関する条件や交通の安全確保に関する条件のほか、工事の工程に関して、工事の着手及び完了時には直ちに所定の届出書を土木事務所長へ提出すること、所長が施行方法の変更、改善又は工事の中止を指示した場合は、直ちにこれに従うこと、工事状況(工事施行前、施行中、施行後)が分かるよう写真撮影を行い、完了届とともに土木事務所に提出することなどの条件が課され(甲二二の4)、また、道路交通法の使用許可を警察署で取ることの条件も付けられ、これを受けて、被控訴人Y5社において本件道路使用許可をとったことなどからすると、被控訴人Y1社は、警察署長の使用許可条件である「工事施工時間外は、道路の堀削箇所等については埋め戻し、又は覆工板等により復旧させ、全面交通開放すること」との使用許可条件を了知していたものと推認するのが相当であること、また、前記のような事情からすると、被控訴人Y1社は、平成七年五月末後の間もなくのころ、本件工事部分上にセーフティーコーンを並べて置いた状態にして、これを放置していたことも、知り得たはずであること、本件道路の交通量等の事情は、被控訴人Y1社において、本件ガソリンスタンドの建築に先立って行われたであろう調査によって知っていたものとうかがわれることなどに照らすと、被控訴人Y1社は、前記のような状態の本件工事部分が本件道路における車両の正常な交通を妨害し、場合によっては事故の起きるおそれがあることを予測し得たものということができるから、本件工事部分について舗装による仮復旧工事を実施するよう指示すべきであったというべきである。しかるに、被控訴人Y1社は、何らの指示もしなかったのであるから、その指図につき過失があったというべきである。そして、右過失と本件事故の発生との間には相当因果関係があることが認められる。したがって、被控訴人Y1社は、民法七一六条但書により控訴人らに生じた後記損害を賠償する義務がある。」
14 同二一枚目表九行目冒頭から同二三枚目裏五行目末尾までを削除し、同六行目冒頭の「四」を「三」と改める。
15 同二四枚目裏一〇行目冒頭から同二六枚目表二行目末尾までを次のとおり改める。
「四 争点3(過失相殺)について
前記認定のとおり、亡Fは、自転車を運転して、訴外車両進行車線上の左端寄りをその後方から川越市方面に向けて進行し、本件工事部分手前付近にさしかかったこと、本件工事部分は、路側帯上にあり、南北に約八〇メートルにわたってセーフティーコーンが並べて置かれており、通行不可能であることは一目瞭然の状態であったこと、当時、本件道路の川越方面に向かう進行車線は渋滞していたこと、本件工事部分の幅が約五〇センチメートルであって、進行車線の通行可能な車道部分の幅員は約二・九メートルであるところ、訴外車両の車体幅は約一・八四メートルであること(甲一九)などからすると、進行車線上の訴外車両と本件工事部分との間の車道部分を自転車を運転して進行することはかなりの危険を伴うことは容易に予測することができたものと推認され、かつ、本件道路の対向車線の右側には自転車も通行可能な幅員三・五メートルの歩道があり、亡Fは、右歩道を利用するか、又は訴外車両の動静に注意を払い、場合によっては自転車を降り、訴外車両をやりすごす等より慎重な自転車の運転を心掛けることにより、本件事故を容易に回避することができたにもかかわらず、自転車を運転して、訴外車両の左後方から同車両を追いつき、さらに前に出ようとして、進行車線の本件工事部分と訴外車両との間の車道部分を進行し、本件事故に遭遇したものであるから、本件事故の発生について亡Fにも過失があったものと認められ、前記認定の被控訴人らの過失と対比すると、亡Fの過失割合は二割五分が相当であるというべきである。したがって、被控訴人らが控訴人らに対して賠償すべき損害額は、控訴人ら各自につき二三三〇万一一〇八円となる。
五 争点4(損害の填補)について
被控訴人らは、本件事故について、訴外会社及びGとともに民法七一九条の共同不法行為者として、控訴人らに対して連帯して損害賠償責任を負うべきところ、控訴人らは、本件事故についての損害の填補として、自賠責保険から三〇〇〇万一六〇〇円の、訴外会社から二〇〇五万四五二一円の各支払を受けたので、控訴人らが賠償を受けるべき前記損害額からこれらを控除すると、控訴人らの未填補の損害はないことになる。」
二 よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第二民事部
(裁判長裁判官 森脇勝 裁判官 池田克俊 裁判官 藤下健)
<以下省略>